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第15回 助動詞の話

はじめに

今回は、助動詞についてお話しします。各助動詞の意味、用法には様々なものがありますが、実務翻訳で使われるものは、会話などに比べると限られています。それでも may など皆さん手こずっておられるようです。助動詞を含む文を訳すには、筆者がどういう意図でそれを使っているのかを理解することが大事です。それが分かれば、助動詞を直接訳さずに済ませることもあります。

will

will は普通、単純未来の意味で使われます。つまり、これから先の動作などを表します。日本語の未来表現には「だろう」「ろう」などの形もありますが、「であろう」が一番穏当なようです。

●例文1

The selection criteria will become obvious in a later section.
その選択基準は、後節で明らかになるであろう

実は、話の内容に直接関係しない地の文では上記のように訳せるのですが、内容に直接関係する場合はそう訳すと話の流れがそれて違和感が生じます。その場合は、「ことになる」「ようになる」と訳すことができます。

●例文2

However, those large cells are also growing and will require more channels.
しかし、これらの大型セルも成長しつつあり、より多くのチャネルを必要とするようになる

訳すさなくても済む場合もよくあります。日本語の現在形は未来を表しますから。最初に述べたように、筆者の意図を理解し、訳出できればよいのです。次の例では、anticipate があるので will の訳を出す必要はありません。

●例文3

Specifically, it is anticipated that each mobile unit will be assigned one signal from the divided set, and will communicate by imprinting a biphase code onto the assigned waveform.
具体的に言うと、各モジュール・ユニットは、分割セットからの1つの信号を割り当てられ▼、割り当てられた波長に2位相コードを印加することによって通信を行う▼と予想される

次の場合は、筆者自身の意図を示しますが、現在形で十分です。意図を表す場合、必要なら、「ことにする」と訳すことができます。

●例文4

This sharing is indicated by arrows in FIG. 8 and will be subsequently discussed in more detail.
この共用関係を図8に矢印で示し、後でより詳しく論じる▼(ことにする)。

shall

shall は、人称の違いを除き will と同様に単純未来および意志未来を表し、訳し方も同じです。その他に、法律、契約などでは、規定の意味を表し、通常「ものとする」と訳します。法律の shall と呼ばれているものです。ある契約書式では次のように定義されています。

Shall denotes the imperative in contract clauses, specifications or solicitations.

●例文5

Unless otherwise specified, the Contractor shall be responsible for furnishing all materials, labor, facilities, equipment and supplies necessary to perform the services required herein.
別段の指定がない限り、請負業者は、本契約で必要とされるサービスの実施に必要なあらゆる資材、労力、設備、機器、消耗品を供給する責任を負うものとする

●例文5A

Contractor shall maintain accounting records according to generally accepted accounting principles to substantiate hours worked, fees and expenses.
請負業者は、作業時間、手数料、経費の証拠として、一般に受け入れられている会計原則に従って会計記録を整備しておくものとする

●例文5B

The Contractor will defend at its own expense any actions based thereon and shall pay all charges of attorneys and all costs and other expenses arising therefrom.
請負業者は、それに基づく訴訟行為に対して自らの費用負担で防御措置を講じ、それから生じる弁護士費用全額、あらゆる費用その他の経費を支払うものとする

●例文6

The Contractor shall be entitled to receive just and equitable compensation for that work completed prior to the effective date of termination.
請負業者は、有効な終了日以前に完了した作業に対して公正な報酬を受け取る資格を有するものとする

この shall は一般に義務を表すと言われていますが、この例のように逆に権利を定める場合にも使われますので、規定を表すという方が正確だと思います。

●例文6A

All reports, documentation, and material developed or acquired by the Contractor, as a direct result of a contract with a local government shall become the property of the contracted local government.
請負業者が地方自治体との契約の直接の結果として作成または取得したあらゆる報告、文書、資料は、契約を結んだ地方自治体の所有物となるものとする

canとmay

can は、能力、可能を表します。「バタフライが出来る」というケースと「今晩、出かけられる」というケースです。中国語では、この2つの意味は、会と能という別々の語で表されますが、英語でも日本語でも区別しません。(英語では、形容詞で表すと、able、capable および possible で区別されます)「できる」でよい訳です。

できるを始め日本語の話法の助動詞には、動詞の態を捨象する性質があります。つまり、受身文も能動形で表され、主語を「は」で受けるときは特にそうです。むしろ、助動詞の前に受動形が来るのはおかしいのです。

●例文7

The beam can be turned on and off very quickly, and it can be bent in two dimensions via magnetic fields.
電子ビームは非常に迅速にオンオフすることができ、磁界によって二次元で曲げることができる

●例文7A

Our control program agents using the CGI interface can create HTML commands dynamically. In this way a program can present information on a Web browser for the Web client.
CGIインターフェースを使用するこの制御プログラム・エージェントは、HTMLコマンドを動的に生成することができる。このようにして、プログラムがウェブ・クライアントのためにウェブ・ブラウザ上に情報を提示することができる

この他に、can は may と同様に、許容および可能性を表すことができます。許容というのは「してもよい」「してもかまわない」という意味で、この訳でもよいのですが、硬い文章では次の例のように「することができる」と訳しても意味は変わりません。また、「しても〜」のもは、省略した方がよい場合がよくあります。否定形 can not、may not は「してはいけない」「することはできない」の意味ですが、must not よりも調子は弱くなります。

●例文8

The destination address can be either an individual node or group address.
宛先アドレスは、個別ノード・アドレスでも、グループ・アドレスでもよい
宛先アドレスは、個別ノード・アドレス、またはグループ・アドレスとすることができる

●例文8A

It is a general rule that the property of a deceased member may not pass out of the gens;
死亡した成員の財産が氏族外に出てはならないというのが一般原則である。

前と同じ文で、この意味の may は次のように定義されています。may の訳し方も can と同じです。

May denotes the permissive in a contract clause, specification or solicitation.

●例文9

The Contractor may reduce prices for software tools at any time by submitting a written notice of the price reduction to PTI.
請負業者は、書面による値下げ通知をPTIに提出することにより、いつでもソフトウェア・ツールの価格を下げることができる

●例文9A

Prices for software tools may not be increased during the initial twelve months of the master contract.
主契約の最初の12ヶ月間は、ソフトウェア・ツールの価格を上げることはできない

●例文10

Those skilled in the art will recognize that other HTML commands and tags may be used for this purpose as well.
他のHTMLコマンドおよびタグもこの目的に使用できることを当業者は理解されよう。

なお、漢語動詞の後では、「〜することができる」という形と「〜できる」という形がありますが、後者は使い方が限られています。すなわち、この例のように副文(連用節、連体節、名詞節)でしか使えません。主文で使うのは本当は舌足らずです。

●例文11

The operating system of the computer may be DOS, WINDOWS 3.x, WINDOWS '95, OS/2, AIX, or any other known and available operating system.
コンピュータのオペレーティング・システムは、DOS、WINDOWS 3.x、WINDOWS 95、OS/2、AIX、またはその他の周知の入手可能などのオペレーティング・システムでもよい

●例文12

The user is able to connect to another document that may be on another Web server.
ユーザは、別の文書に接続することができる。その文書は別のウェブ・サーバ上にあってもよい

このような副文中の may は訳しにくいものです。「にあってもよい〜」という表現は連体用法として熟してないからです。1つの手は、上の例のように関係節を切って訳すことです。この種の関係節は、話の流れ自体に乗っていない場合が多いので、大抵は切ることができます。

●例文12A

FIG. 1 illustrates an information delivery solution of a typical combination of resources including clients and servers which may be personal computers or workstations as clients, and workstations to mainframe servers as servers.
図1に、クライアントとサーバを含む、資源の典型的な組合せによる情報送達の解決策を示す。クライアントはパーソナル・コンピュータまたはワークステーションでよく、サーバはワークステーションないしメーンフレーム・サーバでよい

可能性というのは、「かもしれない」という意味で、形容詞では probable に相当し、「ことがある」「場合がある」「する可能性がある」「あり得る」と訳すことができます。その内容が好ましくない場合は、「する恐れがある」と訳すことができます。否定形 may not は「ないかもしれない」「しない可能性がある」ですが、can not は「はずがない」「あり得ない」の意味になります。

●例文13

This fact can be of particular significance in the tapping of clad fiber waveguides.
このことは、クラッド・ファイバ・ウェーブガイドをタップする際に特に重要となることがある

●例文13A

Fiber terminations can add unwanted optical losses to the system, and would unfavorably increase the need for highly precise fiber splicing and interconnecting arrangements.
ファイバの終端は、望ましくない光学的損失をシステムに加えることがあり、不都合なことに高精密ファイバのスプライス/相互接続配置の必要性を増大させることになる

●例文13B

The husbands of these sisters, however, can no longer be their brothers and therefore cannot be descended from the same ancestral mother;
しかし、これらの姉妹達の夫は、もはや彼女らの兄弟ではあり得ず、したがって同じ女性先祖の子孫ではあり得ない

●例文14

In addition, the nature of some of the work may require that it be performed on-site.
さらに、一部の作業は、その性質上、現場で実施することが必要になるかもしれない

●例文14A

The user requesting the report may wish to have the report results sent to another location in addition to or instead of displaying the report results to the Web browser.
報告を要求するユーザが、報告結果をウェブ・ブラウザで表示するのに加えて、あるいはその代わりに、別の場所に送ってほしいと望むかもしれない

●例文14B

Offerors shall promptly notify PTI of any ambiguity, inconsistency or error which they may discover upon examination of the solicitation documents.
オファー申込者は、請求書類の検討時にあいまいな点、矛盾する点、あるいは誤りを発見した場合、速やかにPTIにその旨を通知するものとする。

●例文14C

Though this period may have lasted thousands of years, we have no direct evidence to prove its existence;
この期間は数千年続いたかもしれないが、その存在を証明する直接の証拠はない。

要するに、may も can も「することができる」と「する可能性がある」のどちらかで訳すことが出来ます。

may にはもう一つ時々見られる用法があります。私は例示の may と呼んでいますが、suppose that などで始まり具体例を挙げて説明する文章で、どの文にも may が付いていることがあります。これは、仮定の話をしていることを示す印と見なすことができ、(せいぜい最初の1つを訳せば、後は)訳さなくてかまいません。

mustとshould

must は、必須義務を表します。

前と同じ文で、must は次のように定義されています。

Must means that a certain feature, component, or action is a mandatory condition. Failure to provide or comply may result in a proposal being considered non-responsive.

同じく、should は次のように定義されています。

Should means that a certain feature, component and/or action is desirable but not mandatory.

したがって、must と should、さらに need は、できるだけ「しなければならない」「すべきである」「する必要がある」と訳し分けるべきです。わざわざ言い換える人がよくいますが、かえって有害です。

●例文15

However, in the event an offeror submits trade secret information to PTI, the information must be clearly labeled as a "Trade Secret."
ただし、オファー申込者が企業秘密に属する情報をPTIに提出する場合は、その情報にはっきりと「企業秘密」の標識を付けなければならない

●例文16

The advantage of memory to memory machines is the ability to process very long vectors, whereas register to register machines must break long vectors into fixed length segments.
メモリ間マシンの利点は非常に長いベクトルを処理できることであり、一方、レジスタ間マシンは、長いベクトルを固定長のセグメントに分割しなければならない

●例文16A

Markers must be polymorphic to be useful in mapping; that is, alternative forms must exist among individuals so that they are detectable among different members in family studies.
標識がマッピングで有用となるためには、多型的でなければならない。すなわち、家系調査で異なるメンバー間で検出可能な代替形態が個体間に存在しなければならない

なお must は、この他に必然を表すことがあります。「にちがいない」「はずである」と訳します。否定形は can not です。

●例文17

Such a policy must inevitably, as the past has already shown, result in the uprooting of Muslims in this country and their migration to Pakistan.
このような政策は、過去の例が示すように、必然的にこの国におけるイスラム教徒の一掃とそのパキスタンへの移住をもたらすにちがいない

●例文17A

It must have been on the borders of such pasture lands that animals were first domesticated.
動物が初めて家畜化されたのは、こうした牧地の周辺部であったにちがいない

動詞が完了形になっているのは、過去のことを現時点で判断しているからです。

●例文18

Accordingly, each initial proposal should be submitted on the most favorable terms which the offeror can submit to PTI.
したがって、最初の各提案は、オファー申込者がPTIに提出可能な最も有利な条件で提出すべきである

●例文18A

Users should be aware that the xarchie client accesses a server that is shared with users on other hosts.
ユーザは、Xarchieクライアントが他のホスト上のユーザと共用のサーバにアクセスすることを知っているべきである

●例文19

As such, patients for whom these products are indicated should not discontinue therapy without consulting their health care professional.
したがって、これらの薬剤の適用を受けている患者は、自分の医療専門家に相談せずに、治療を中断すべきではない

●例文19A

The gap between the blades of the impeller and the pump housing should not exceed a tenth of a millimeter.
インペラのブレードとポンプ・ハウジングの間のギャップは、1/10ミリメートルを超えるべきではない

接続法

would は will の過去形ですが、仮定法で使われる場合が多いです。つまり、ある仮定の下で、その後に起こるはずの動作を表します。この場合、would は「ことになる」「はずである」と訳すことができます。

現在の英語では接続法という文法範疇は立てられていませんが、ドイツ語やフランス語で言う接続法の形です。shall、can、may の過去形である should、could、might も同様に、仮定法で使われます。つまり普通なら shall などの形で出てくるものが、仮定法だから助動詞が過去形(接続法)を取っていると考えてよいのです。

●例文20

If the statement of work is inaccurate or incomplete, it could result in significant delays, increased administrative costs and subsequent contract disputes, adversely affecting both the local government and Contractor.
作業明細書が不正確または不完全であれば、著しい遅れ、管理コストとその後の契約上の紛争の増大を招き、地方自治体と請負業者の双方に悪影響を与える恐れがある

●例文20A

In most instances, it would be desirable if a portion of the signal propagating through the fiber could be tapped therefrom without breaking or terminating the fiber.
たいていの場合、ファイバを通って伝播する信号の一部を、ファイバを破断または終端させることなく、そこから取り出すことができるなら、望ましいであろう

●例文20B

Without means for identifying each client, the organization would not be able to provide information on the network on a confidential or preferential basis.
各クライアントを識別する手段がない場合、この組織は、ネットワーク上で秘密にまたは優先的に情報を提供することができなくなる

●例文21

As an example should the user want to make a special request in accordance with our invention, he could click on image 30. This would take the user to the next screen, illustrated by FIG. 3. Alternatively the user could select by clicking on image 31 another menu screen, illustrated by FIG. 5. At this point also, a specialized format could be selected by double clicking first on a format select image illustrated by image objects representing access to menu screens 32, 33, 34, one or more of which is a gopher.
一例を挙げると、ユーザが本発明に従って特別な要求を行おうとする場合、イメージ30をクリックすることができる。これによってユーザは図3に示す次の画面に導かれる(ことになる)。あるいは、ユーザはイメージ31をクリックして、図5に示す別のメニュー画面を選択することもできる。またこの時点で、メニュー画面32、33、34(その1つ以上がgopher)へのアクセスを表すイメージ・オブジェクトで図示されるフォーマット選択イメージをまずダブル・クリックすることによって、特殊なフォーマットを選択することもできる

●例文21A

The example of a preferred bitmap object command which would be employed with today's Internet environment is a GIF image.
今日のインターネット環境で使用される▼好ましいビットマップ・オブジェクト・コマンドの一例は、GIF画像である。

婉曲の should や願望の might など変わった意味で使われる場合も、接続法であると解釈するとよく理解できます。

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