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第4回 動名詞構文の話

前回は名詞構文の話をしましたが、要は、派生名詞を修飾する句が沢山あるときや、直訳するとぴったり決まらない場合、「〜すること」「〜すると」などくだいて訳すとうまくいくということです。

 前回までの話は自然な訳文を作るためのテクニックに関するものでしたが、今回の話は、知っていないと原文がうまく理解できないというものです。

前回の名詞構文の話でも、動名詞を使った例文を随分紹介しましたが、それらは意味上の主語を伴わず、訳し方も誰でもできる簡単なものです。今回は、主語付きの動名詞構文、およびそれと似た性質の構文についてお話しします。

主語付きの動名詞構文

次の例文1の文章をどう訳しますか。involveは「必要とする」という意味です。この文は、sendingがcommanding systemを後から修飾する現在分詞と考えて「コンピュータ・システム間の通信には、コマンド受信側システムにコマンドを送るコマンド発信側システムが必要である。」と訳してしまいそうですが、そうするとちょっと変ですね。発信側システムだけが必要で、受信側システムは不要なのでしょうか。いいえ。sendingは現在分詞ではなく、前の語句と後の語句をつないで一つの語句にまとめているのです。つまり、involves that a commanding system sends a command to a commanded systemと同じ意味を表しているのです。次の訳だとすっきりしますね。これが主語付きの動名詞構文の解釈と訳し方です。なお今後は主語付きのと特に断らず、単に動名詞構文と呼ぶことにします。

●例文1

Communication between computer systems usually involves a commanding system sending a command to a commanded system.
コンピュータ・システム間の通信には、コマンド発信側システムがコマンド受信側システムにコマンドを送ることが必要である。

上の例では動名詞構文は目的語になっています。次の例も複合動詞の目的語です。主語付きの動名詞が主語になる例は見られないようです。

●例文2

interfere with the CPU storing data
CPUがデータを格納するのを妨害する。

もちろん「データを格納するCPUを妨害する」ではありません。もう動名詞構文の訳し方がわかりましたね。

次の例ではofが前について形容詞句になっています。つまりthatクローズの代わりです。

●例文3

the step of said multiple NICs in said server programming their MAC addresses to be the same on all interfaces
前記サーバ中の前記複数のNICがそのMACアドレスをすべてのインターフェース上で同じになるようにプログラムするステップ

動名詞の意味上の主語は、前回述べたようにbyで表すこともできますので、これは、the step of programming〜by said multiple NICs〜と書くこともできます。 この文は同じ文書の別の所に次の形で出てきます。

The multiple NICs in the server program their MAC addresses to be the same on all interfaces. もちろんprogramが動詞です。

前置詞付きの動名詞構文

この構文も前置詞の後によく使われます。つまり名詞構文と同様の発想で、接続詞の使用を避けて、その代わりに使うのです。この場合も訳し方は同じで、副詞節の形で訳すべきです。ing形を前の名詞の修飾語と見てはなりません。

●例文4

In response to the minimum criterion being met, the values of the first and second variable reactances are maintained constant.
最低限の基準満たされたことに応答して、第1および第2の可変リアクタンスの値が一定に維持される。

●例文5

concurrently with the first bit being inputted into cell 2
第1ビットがセル2に入力されるのと同時に、

●例文6

in response to the first application attempting to communicate with another
第1のアプリケーションが別のアプリケーションとの通信を試みるのに応答して、

付帯状況構文

これと似た形で、withが頭に付くものを付帯状況構文と呼んでいます。この構文も動名詞が前の句と後の句をつないで一つにまとめているのです。それを知らずに後ろから訳していくと、withの意味付けができなくなります。直訳すると「〜が〜した状態で」となりますが、状況が許せば「〜を〜して」などと訳します。

withの後にing形ではなく、過去分詞や前置詞で始まる副詞句が来ることがよくありますが、これはbeingが省略されたものです。

●例文7

to laminate multiple chips with the workpiece disposed between two adjacent chips
隣接する2枚のチップの間にワークピース配置して、多数のチップを積層する

●例文8

Devices were switched for over 107 cycles with as much as 10 volts applied between the source and drain and the current limited at as high as 5 mA.
ソースとドレインの間に10ボルト印加し電流をわずか5mAに制限して、107サイクル以上の間デバイスをスイッチングさせた。

付帯状況構文の基本的な意味は上記のように「〜が〜した状態で」ですが、補足説明として単にandの意味で使われる場合もあります。

●例文9

The segment's products are primarily sold through direct sales people, with sales representatives being used in certain situations.
この部門の製品は、主として直接販売者の手で販売されるが、状況によっては代理人使う

●例文10

The Company's sales are subject to minor seasonal fluctuations, with second quarter sales traditionally being the lowest of the year.
当社の売上げは僅かに季節的変動があり、通常第2四半期の売上げが年間で最低である

beingが省略されていても、次が過去分詞の場合は付帯状況構文であると判断しやすいのですが、副詞句など他の場合は難しいです。なお、動名詞構文の場合はbeingが省略されることはありません。

●例文11

General heating in a furnace of the device with a material for forming the bond in place is the technique of choice.
結合を形成する材料適切な位置に置いて、デバイスを炉内で全体的に加熱する方法が好まれる。

●例文12

where R is the reflectivity of the mirrors and N = 2nd/l with n the index of refraction and d the spacing between the mirrors.
上式で、Rは鏡の反射率、N = 2nd/lであり、n屈折率dは鏡の間隔である。

●例文13

With the foregoing description in mind, it is understood that
以上の説明念頭に置けば、〜が理解されよう。

付帯状況構文の連体用法

付帯状況構文が副詞句ではなく、形容詞句の働きをする場合もあります。基本的な意味は「〜が〜した状態の」ですが、通常は「〜が〜した」と訳せます。

●例文14

Fig.3B shows a cross-section of an isolation region transistor with the channel stop implant removed.
図3Bは、チャネル・ストップ注入物除去した分離領域トランジスタの断面図である。

●例文15

Silicon-On-Insulator (SOI) consists of a bulk silicon substrate with a thin layer of single crystalline silicon on top and separated from the substrate by a silicon dioxide layer.
シリコン・オン・インシュレータは、単一結晶シリコンの薄い上面にあり、二酸化シリコン層で基板から分離されている、バルク・シリコン基板からなる。

動名詞構文と付帯状況構文の区別

withは様々な用法がありますので、ing形の前にwithが付いていても、付帯状況構文である場合とそうでない場合があります。

●例文16

Synchronous backup consists in making a replica or copy of the data simultaneously or quasi-simultaneously with the data being put into memory in the originating station.
同期バックアップは、データが発信局のメモリに入れられるのと同時またはほぼ同時に、データの複製またはコピーを作るものである。

このwithはsimultaneouslyにかかるので、付帯状況構文ではなく動名詞構文です。

●例文17

by bringing such portion of the mixture to the surface of the film into contact with the reduced pressure atmosphere maintained within the evaporator.
エバポレータ内を減圧の雰囲気保ちながら、混合物の上記部分を被膜の表面と接触させることにより〜

これはcontact withではなく、付帯状況構文です。

形容詞構文

構文の形は違いますが、翻訳の手続きが似たものに、形容詞構文があります。

たとえば、the problem of increased delayはどう訳すべきでしょうか。「増加した遅延の問題」というのは日本語として変ではありませんか。「遅延が増加するという問題」と言った方がわかりやすいですね。

この言い方は日英の発想法の違いによるものですが、直訳しておかしいと思うときはこの構文として訳して下さい。名詞と形容詞の順序を逆にして間にbeingを挟むと、the problem of the delay being increasedと言う動名詞構文になります。この形にして訳すと日本語として自然な訳になります。したがってthe problem that the delay should be increasedと書き変えたのと同じ意味です。なお、この構文の場合は過去分詞も形容詞として扱います。

●例文18

The operating system then verifies correct response of the error checking system.
次いでオペレーティング・システムは、エラー検査システムの応答正しいことを検証する。

●例文19

The likelihood of copending interdependent store and fetch requests substantially increases.
相互に依存する記憶要求と取出し要求同時に保留になる可能性が大幅に増大する。

この文は次のように書き換えられます。

 The likelihood of interdependent store and fetch requests being copending〜

この表現が主語になっている場合がよくあります。

●例文20

A shorter clock cycle time, or equivalently a larger number of cycles per second, implies more operations can be performed per unit time.
クロック・サイクル時間より短い、あるいは同じことであるが毎秒当たりのサイクル数より多いということは、単位時間当たりより多くの動作が実行できることを暗示する。

形容詞構文を他動詞で受ける場合、名詞構文と同様に、副詞節の形で訳すのが普通です。

●例文21

Lesser amounts of aluminum nitride in the first layer would reduce the integrity of this interface.
第1層中の窒化アルミニウムの減ると、この界面の完全性が低下することになる。

●例文22

inactive signal ENR disables
ENR信号非活動状態 のときは、〜が使用不能になる。

もちろんこの構文も前置詞の後に使用することができます。

●例文23

due to the smaller harmonic amplitudes and a uniform distribution of the harmonics
調波振幅より小さく、調波の分布均一なので、

●例文24

Although the actual contributions to global warming depend upon the quantities emitted, because of their long atmospheric lifetimes, the warming effects of PFCs are essentially irreversible.
地球温暖化に対する実際の寄与は放出量に依存するが、大気中での寿命長いため、PFCの温暖化作用は本質的に不可逆である。

名詞構文のところで、構文が簡単な場合は動名詞句を「〜を〜すること」とせずに単に「〜の〜」としてよいと申し上げましたが、形容詞構文でも同様です。例えば次の例文で、increased interest expenseは「支払利息が増加したこと」と訳す代わりに「支払利息の増加」と訳すことができます。形容詞を名詞形にして被修飾語と順序を入れ替えるということです。

●例文25

Net sales are expected to be approximately $900.0 with improved operating profit margins offset by increased interest expense and a higher effective tax rate generating record earnings per share.
純売上は900.0ドルと予想され、改善された営業利益から支払利息増加と実効税率上昇分を差し引いても、過去最高の一株当たり収益が得られる。

●例文26

so you will be able to decide whether the benefits of increased performance are worth sacrificing abstraction and portability.
したがって、性能向上の利益が、抽象性と移植性を犠牲にするだけの価値があるかどうか、判断することができる。
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